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5 血糖値の変動


5・1. 血糖値の日内変動

     図 食事のエネルギと、健常者および高血糖症患者の血糖値の日内変動

食事をすると、咀嚼中、食物の口から胃への移動中、および胃の中で、食物中の澱粉やグリコーゲンは、消化酵素によって、ぶどう糖へ分解されます。
食事開始の 5-10 分後から、生じたぶどう糖は小腸で体内へ吸収され始め、血液中へ入り、血糖値が上昇し始めます。
血糖調節システムは、この血糖値の上昇に対して即座には対応できず、少し遅れて対応します。
これが、健常者でも、血糖値が食事毎に少し上昇する理由です。
したがって、砂糖、ぶどう糖、果糖などを摂取した場合、血糖調節システムの対応が遅れるために、血糖値は瞬間的に急上昇します。
血糖調節システムが先天的に、主として遺伝的に、不完全であることがあります。
後天的な血糖調節システムの障害は、多くの場合、高濃度の砂糖、ぶどう糖、果糖などを含む食物や飲料を習慣的に摂取することによって引き起こされます。
正常型血糖値の人が砂糖を含む飲料を飲んだときに起こる現象を下記します。
飲料は砂糖 30 g を含むと仮定します。
その飲料を一気に飲むと、飲料は急速に胃を通過し、その間に、大部分の水分は吸収され、砂糖は果糖とぶどう糖に分解されます。
濃縮された果糖とぶどう糖の液は小腸で迅速にしかも高効率で吸収されます。
血液の総量は、体重の約 8% ですので、体重 70 kg の人では約 5.6 L です。
体内へ吸収されたぶどう糖が血液へ入った直後、血糖値は約 300 mg/100 mL へ急上昇します。

5・2. 貯蔵エネルギ源


グリコーゲンを多量に貯蔵できる組織は肝臓と筋肉です。腎臓は少量のグリコーゲンを貯蔵できます。
     表 体重 70 kg の男性成人の貯蔵エネルギ源

健常な男性成人 (体重 70 kg) のグリコーゲン貯蔵量は、肝臓では最高約 300 kcal そして筋肉では最高約 600 kcal です。
腎臓、心臓などは極めて少量のグリコーゲンを貯蔵できます。
脳、赤血球、副腎髄質、精巣および卵巣は、通常、ぶどう糖だけをエネルギ源として利用しますが、これらの組織はグリコーゲンを全く貯蔵できません。
食事をしない状態で、貯蔵グリコーゲンが枯渇すると、先ず、肝臓の貯蔵グリコーゲンがぶどう糖へ分解され、生じたぶどう糖はぶどう糖を必要とする組織へ輸送されます。
肝臓と異なり、筋肉では、貯蔵グリコーゲンは、ぶどう糖 (グルコース) に燐酸が結合した物質 (グルコース 6-燐酸:G6P) へ分解されますが、G6P をぶどう糖と燐酸へ分解する酵素が存在しません。
G6P は、筋肉中では、ぶどう糖と同じように利用されますが、筋肉から外へ出ることができないので、他の組織のぶとう糖源にはなりません。
肝臓に貯蔵されているグリコーゲンは、安静な生活でも、生活に必要なエネルギの 4-5 時間分にしか過ぎません。
肝臓のグリコーゲンが枯渇すると、先ず、主として筋肉の蛋白質 (約 24,000 kcal) が動員され、アミノ酸に分解されるようになります。
無計画な絶食による減量が非常に危険である理由です。
生じたアミノ酸は主として肝臓へ輸送され、そこで、糖新生によってぶどう糖へ変換され、ぶどう糖を必要とする組織へ配分されます。
糖新生経路は腎臓にも存在しますが、筋肉には存在しません。
絶食が続くと、筋肉蛋白質の消費による糖新生が次第に低下し、代わりに、脂肪組織中の脂肪が脂肪酸とグリセロールに分解され始めます。
生じた脂肪酸とグリセロールは肝臓へ輸送されます。
肝臓中で、脂肪酸はケトン体 (アセトン、アセト酢酸、ヒドロキシ酪酸) へ代謝され、一方、グリセロールはぶどう糖合成に利用されます。
ケトン体は、絶食 3 日後には、脳のエネルギの約 30%、そして 1 ヶ月後には、約 70% を供給します。
同時に、絶食 1 ヶ月後の筋肉蛋白質の分解速度は、絶食 3 日後の 25% に低下します。
その結果、飢餓状態における生存期間は、筋肉蛋白質量よりも、貯蔵脂肪量に依存します。
専門医の厳密な管理下での減量計画では、極度の肥満者は 1 年にわたる絶食に耐えることができます。

5・3. 血糖値変動の原理

     図 健常成人の血糖値変動の原理
図は次の仮定の下に描かれています。
対象人の性状: 健常成人、体重 70 kg、空腹時血糖値 90 mg/100 mL、総血液量 約 5.6 L、基礎代謝 1500 kcal/日 (62.5 kcal/時)。
精白米のご飯 400 g を 30 分で摂取し、安静に生活を続けると仮定します。
精白米の御飯 100 g の成分:エネルギ 148 kcal、水分 65 g、蛋白質 2.6 g、脂質 0.5 g、糖質 31.7 g、不溶性食物繊維 0.4 g、カルシウム 2 mg、燐 30 mg、鉄 0.1 mg、ナトリウム 2 mg、カリウム 27 mg、マグネシウム 4 mg、亜鉛 0.54 mg、銅 0.08 mg、ビタミン E 0.2 mg、ビタミン B1 0.03 mg、ビタミン B2 0.01 mg、ナイアシン 0.3 mg (文献:香川芳子/監修 (2000):四訂 食品成分表 2000、女子栄養大学出版部、56-57 頁)。
三大栄養素のカロリー値: 澱粉 3.81 kcal/g、蛋白質 約 4 kcal/g、脂肪 約 9 kcal/g。
含まれている糖質は全て澱粉であるとします。
澱粉の完全酸化: 澱粉 (31.7 x 4 g) + 水 (3.5 x 4 g)→ ぶどう糖 (35.2 x 4 g)
精白米の御飯 400 g に含まれている三大栄養素のエネルギ量は、蛋白質 41.6 kcal、脂質 36 kcal、糖質 (全て澱粉と見なす) 536 kcal。
単純化のために、蛋白質と脂質を省略し、澱粉 (糖質)だけについて考えます。
澱粉は、口から小腸入り口へ移動する間、特に胃で約 4 時間滞留する間に、完全に加水分解 (消化)され、生じたぶどう糖 (ぶどう糖の分子量 = 180.16) は、小腸粘膜の上皮細胞を介して、ほぼ完全に体内へ吸収されます。
吸収されたぶどう糖の全部 (148 g) が血液中に止まり、変化しないと仮定すると、対象人の血糖値 (血中ぶどう糖濃度) は 2642 mg/100 mL 上昇します。
こととき、食前の血糖値 90 mg/100 mL を加えると、食後の血糖値は 2732 mg/100 mL になります。図中の「仮定1の曲線」。
基礎代謝 62.5 kcal/時をぶどう糖量に換算した値 = 16.4 g/時、血糖値に換算した値 = 292 mg/100 mL/時。
食事後、全ての基礎代謝エネルギが血糖から補填されるとき、図中の「仮定 2 の曲線」が得られます。
血糖値のマイナスは説明のための仮想のものです。
脂肪から生じる脂肪酸は糖新生には利用できません。
血糖値 90 mg/100 mL より下の部分は次の順番で補填され、その結果、血糖値は 90 mg/100 mL に維持されます。
肝臓や筋肉などの貯蔵グリコーゲン (約 300 kcal) からの糖新生 (ぶどう糖合成)。300 kcal は血糖値に換算すると 1406 mg/100 mL に相当し、90 kcal/100 mL を引いた値が -1316 mg/100 mL です。
絶食が続くと、ぶどう糖の大部分は、蛋白質 (主として筋肉蛋白質) の分解によって生じるアミノ酸、そして僅かな一部は、脂肪酸の分解によって生じるグリセロールから合成されます。
絶食が続くと、筋肉蛋白質の分解は次第に低下し、長期間の絶食後の分解速度は数日間の絶食後の分解速度の 1/4 程度になります。
けれども、筋肉蛋白質の分解が続くと、回復が次第に困難になります。
絶食が数日間続くと、肝臓中のオキサロ酢酸は糖新生に使われてしまうために、アセチル CoA のくえん酸サイクルによる代謝は極端に減少します。
そこで、肝臓は アセチル CoA をケトン体へ変えて、血液中へ放出します。
脳はエネルギ源としてケトン体を利用できます。脳のエネルギ源としてのケトン体の利用度は、 3 日間の絶食後では 1/3 程度ですが、約 1 ヶ月間の絶食後には 3/4 に達します。
精白米の御飯 400 g を食べただけでも、何もしないで安静に生活すると、食事のエネルギは完全に消費されるためには約 9 時間もかかります。


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